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日経新聞 春秋(2011年6月8日) 50Hz-60Hzの電源周波数の統一は可能か?

June 12, 2011

日経新聞のコラム(春秋, 2011年6月8日)を 読んで、あまりにダイナミックな勘違いにのけぞりました。 商用電力の周波数は東日本と西日本で異なっていますが(東:50Hzと西:60Hz)、 この境界をまたいで電力を直接に供給しないのは、 電力会社の経営も含めた制度の問題ではないか、との疑問が提示 されていたためです。 主要紙のコラム欄で、こういったとんでもない記事を 目にしたのをきっかけに、交流や周波数について 少し考えてみました。

まとめ(当たり前かもしれませんが。)

日経新聞のコラム(春秋, 2011年6月8日)を 読んで思わず噴き出してしまいました。以下のような記述を見つけたためです。

「電線はつながっているのだから、本来ならば西から東へ60ヘルツのまま電力を流し込む考え方もできるはずだ。自力で需要を賄えないなら供給を誰かに任せ、負担を減らす発想があってもよい。▼それをしない背景に、周波数の違いを理由にして市場を守りたい気持ちがないと言い切れるかどうか……。」

このような桁はずれの勘違いを 主要紙のコラム欄で見たことに触発され、 この勘違いについて少し考えてみました。

中学校の技術や理科が苦手だったりすれば こういった勘違いは起こりうるかもしれません。 同じ「デンリョク」なのだから、「シュウハスウ」が 違っていても何の問題も生じない、と。 「東京で買ったノートパソコンは大阪でも動く」といった事実を 根拠にした、なんとなく確からしい説明付けなど、 空論はいくらでも振り回せます。

しかし、仮にそのような勘違いをしたとしても、 新聞記者であれば常識的な判断は出来るはずです。 技術的に容易に解決できるのであれば、これほど大きな問題にはなっていない、と。 電車が止まったり輪番停電が生じただけでも、 これほど社会が混乱している状況で、テクニカルに容易に解ける問題が そのまま放置されるはずはありません。 大げさなことを主張すれば一時的には注目されますが、 もう少し社会や経済、国家を信頼した、真っ当な物の捉え方をすべきではないでしょうか。

忘れていたり、分からなかったりすれば、 百科辞典でもWikipedia ( (商用電源周波数について) でも電気工学の一般向け入門書でも調べて理解することは容易です。 これらの容易なチェックを経ないで、何かの陰謀説に持ち込んでしまうとは、 記事の製作過程で大きな問題でも生じているのではないかと心配になってしまいます。

この記事を読んで、逆に、迷信やデマが流布する典型的な事例が理解出来た気がします。 「ボールペンのインキがなくなるのは、ボールペン会社が儲けるためである」 とか「アメリカはすでに宇宙人と協定を結んでいて、国際社会に隠している」といった 酒の席のネタを耳にしたことがある人は多いと思います。 似非科学や誤った情報が社会への不信や常識への不寛容と結び付くと、 このようなデマを信じる心理状態に陥るのだと思います。

社会的な信用度の高い新聞という媒体でさえ、 詳しく調べればこのような誤りは多くあるのかもしれません。 これほど誤解と猜疑心に満ちた情報が、よりによって多くの人が読む新聞のコラムに なっているのですから。 このような記事を読んだ人の一部が誤りに気付かなければ、 誤りが、お墨付きを与えられた定説として社会に流布されるきっかけとなるわけです。 しばらくしたら、以下のような都市伝説が広まるかもしれませんね。 「周波数が東西で異なるのは、電力会社の利益を守るための陰謀らしい」。 常識的に考えればすぐに否定できます。 じゃあなんでもっと細かく分けないのか?四国と九州で40Hzと70hzを使えば それぞれの電力会社は利益を守れるではないですか?


異なる周波数域に電力を直接供給することは不可能。

電位の時間的な変化が異なりますので、変電所を燃やす程度の気合いが必要ですね。 異なる回転速度で同じ歯数の歯車をかみ合わせるようなものですから。

同じ周波数において、電圧の変換は比較的容易。

電圧の変換はかなり高効率に行えます。交流の電圧変換には トランスを使いますね。実際に発電所から家庭までの電力供給では、 ロスの少ない高電圧で供給して、少しずつ下げながら 家庭の100 Vなり200 Vにしていますよね。

周波数の変換にはロスが大きく、大規模な変換は難しい。

上記の電圧の変換に対して、周波数の変換はロスが非常に大きくなります。 一度直流に直して、再度発振させる方法か、モーターと発電機を 組み合わせる方法が考えられるかと思います。Wikipediaで 読みますと (佐久間周波数変換所) 前者を使っているようですね。(効率を考えれば当然ですね。)しかし、 この変換にも大きな機器を必要としますので、 これを作るくらいなら東西にそれぞれの周波数の発電所を増設した方が安上がりで 安定度も高まりますね。

家庭用の(電子)機器の多くは、直流に戻して使うのでヘルツフリー(どちらでも動く)

ドライヤーや扇風機などの動力物は交流で動いていますが、電子機器の多くは直流で動いています。 ノートパソコンなどのACアダプタは交流を直流に変換する機器です。もちろんロスがあります。 だからこそ、熱を発生して温かくなります。

産業用の大型機器の多くは、周波数によって動作状況が異なる。

産業用のモーターなどは普通は交流です(三相といって、3本の線を使って、 周波数は同じで、位相だけが異なる電圧の波を使う場合が多くあります)。これらは、 周波数が変わると回転速度が変わります。東日本の地域を輪番で 停電させながら、ありとあらゆる電気機器の設定を変更し、60Hzでしか使えない機器を 新しいものに交換させる方法で50 Hzに統一させることは可能ですが、 発電所を増設した方がコストも安く無駄も少ないですね。

以上のような理由から東西間の電力の相互供給は(量的に)制限されていると考えられます。 もちろん、将来に発生する可能性のある供給力のアンバランスに 対応するために、周波数変換に大きな投資をすることは 一つの方法論かもしれません。しかし、周波数変換よりも 東西それぞれの発電能力を上げて、 余裕を持たせることの方が効率的かつ重要であることは論を待ちません。


平易に書かれており、大きな勘違いは防げます。


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