携帯電話での地図情報の取得やカーナビゲーションシステムとしてGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)が広く利用されています。これらの機器の普及に伴い、GPS受信機の価格も大幅に下がりました。今回、ジョギングでの位置測定(速度や移動距離)やラジコン飛行機の運航を記録する小型かつ軽量な装置を製作いたしました。
(注)
ソフトウェアのインストールがやや複雑ですので下記をご参照ください。
GPSデーロガー USB Dongle M-02619 GT-730F/L ソフトウェアインストール方法
ジョギングや登山、自転車などの 移動履歴の記録、ラジコン模型飛行機等の運航記録など。 特に定量性を必要とする移動の記録。
GPS受信機の市販品は多種にわたります。 単純に移動記録を取るためには "GPSロガー"等の機器を使用するのが最も簡単です。 インターネットで検索をかけると、通信販売のサイトも多く見つかると思います。 しかし、最大速度を高精度に測定したり、 経度、緯度の生データを読み出したりするために使える市販の 機器は見当たりませんでした。 私は現在、ジョギングでの距離の測定に市販品のGPSロガーを 使っているのですが、今回は模型飛行機に搭載して、 3次元のデータを取ることをターゲットにアイデアを練りました。
上記の目的を達するため、秋葉原の部品屋さんをウロウロしたり、 室内模型飛行機の通信販売サイトを眺めたりして情報を集めました。 その結果、高エネルギー密度のリチウムポリマーバッテリーを電源として USBタイプのGPSデータロガーを駆動させることで、 汎用品の組み合わせのみで、自由度の高い位置記録ができると考えました。 どちらも検索で出てきますが、探すのが苦手な方は メールをいただければお伝えいたします。 (リンク許諾の問題のため面倒ですみません。)
まず、装置に必要不可欠な GPS受信機ですが、USB接続でデータを取得でき、 わずか25g程度のものが市販されております。 使い勝手は大手メーカーのものよりも劣りますが、 追尾できる衛星の数や精度などは遜色のないものです。 秋葉原の秋月電子で購入できます。 4200円でした。モバイル用途に5-6Vの電源のための 電池ボックスをおまけで付けてくれました。 しかし、単三電池4本といえども、ジョギングに 携帯するのは不便ですし、まして小型の模型飛行機に 積むことはできません。そこで軽量なバッテリーを探すことにしました。 (登山や自転車の方はこの市販品だけで十分楽しめます。)
今回使用した電源はリチウムポリマーバッテリーです。 軽量でエネルギー密度が高いために 携帯電話やデジタルカメラ等の モバイル機器用に広く用いられています。 1セルの電圧が3.6-3.7 Vと高く、 今回のUSB-GPSで必要となる3.8 Vをほぼ満たしています。 0.1V足りないのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、 電池の電圧は一般に、充電完了時には定格よりも高く、 使用に応じて徐々に下がっていくという特徴を持っています。 リチウムポリマー電池では充電完了時は4.2 V程度あり、 容量の大半を使うまで3.8 Vには下がらない特徴があります。 (次回、放電器を使って放電特性を調べたいと思います。) USB-GPSが3.8 V程度で動作を止めるということは 逆にいえば、この程度から極端な放電は生じないと推測できます。
今回、アイデアの一つとしてこれらの携帯電話用の バッテリーを使用する方法も検討しましたが 値段はそれほど変わらず、 コネクターを適合させるのが面倒であったため、 室内模型飛行機用として売られているものを選びました。 1セルで3.7 V 350 mA定格のものです。 重さは5 g程度、大きさは2×3cm程度です。 価格は1500円程度でした。もっと安いものもあると思います。 千石電商でもいろいろな容量のものが売られているようでした。
リチウムポリマー電池は充電の電圧/電流制御が難しく、 セルの電圧もニッケル水素とは全く異なり、他の充電器が流用できません。 そこで、電池を買った通信販売サイトで充電器のキットを購入しました。 用いる電源ICはLinear TechnologyのLTC4054です。
下記のサイトにこのICを利用した充電器の製作が紹介されています。
http://cac-japan.com/electronics/libt_chg/index.htm
作るのが面倒な方は、
電子部品か模型飛行機の専門店で3000円程度で購入可能です。
最大充電電流の設定に必要な抵抗を個別に設定する必要があります。 1Cの充電が適切だと言われていますので 今回はR(control)=4.7kΩ程度として200mA程度で1.5 h程度で満充電、 とするのが良いかと思われます。
製作したキットの 部品点数は少なく、比較的作りやすい部類に入りますが、 ICも抵抗、コンデンサなどの部品は非常に小さいため、 こて先の鋭い半田ごてを用意する必要があります。 慣れた方ですと30分もあれば組み立てられるかと思います。 私はチップ型の抵抗やコンデンサのはんだ付けは初めてでしたので、 特にIC部に半田不良が発生し、テスターを当てながら チェックして修正するのに時間がかかりました。 電源にはUSBポートからの5Vも使えますが、 今回はACアダプター(5V, 1A)を用いました。
データシート を見ますと、CHARGE端子はバッテリーへの電流がonの時に接地されますので、LEDのマイナスつけておいて”充電中”ランプとしていることがわかります。 バッテリーへの電流が減少すればランプは消えますので これでACアダプターを抜けば良いことがわかります。 キットでは電流値はディップスイッチの組み合わせで制御できます。 4.2 から33kΩの抵抗が一本でそれぞれ30,60,120,240 mAの 電流に相当しますから、この任意の和で 30,90,150...,450 mAまでの電流で充電ができます。 私は120 mAで充電しました。1.5h程で充電が完了しました。 基板やバッテリーは室温のままでした。 ケースは梅干しの容器です、、、。100円ショップなどで 適切なプラスチックケース(できれば難燃性のもの)を選ぶのが良いと思います。 充電中のバッテリーや基板の温度上昇は全くありませんでした。
コネクタの形状は以下のとおりです。USBとJSTのコネクタ(B2BZR,ZHR-2) の変換を行います。プラスとプラス、GNDとGNDをつなぐだけです。 弱いので熱収縮チューブで覆い、中に熱可塑性の樹脂を流し込んで 固めました。ビニールテープで巻くだけでも良いと思います。 USBは下の写真の右端が+です。
装置の全体像はこのようになります。 30gぴったりに収まりました。 模型飛行機に乗せるにはこのままでOKです。 ジョギングに使用される方は、防水と破損防止のため、 フィルムケース(最近、珍しいですね)などの小型の プラスチックケースに入れるのが良いと思います。 雑貨店や100円ショップで見つけてください。
こちらはUSB-GPS装置の動作試験となりますが、 入力電圧がやや低く、うまく測定できない心配もありました。 下の図がマンションのベランダから測定した例です。 実際に捕捉できる衛星が南側のみに限定された条件にも かかわらず、電源投入後、約150秒で正確な測位が可能となっていました。 距離の算出には
の係数を用いました。 この一次近似でも1km程度の測定であれば GPSの信号の測位のばらつきよりも小さくなると思います。 絶対的な値を必要とするときには複数の測量用の 三角点などで補正をかければよいと思います。 また、数値データのみで正確な値を求めたい場合には 別のページ(緯度・経度の変化から距離を求めるをご参照ください。)
南北方向の安定性が悪いのは、南北向きの精度に影響を与える 衛星の数が制限されるためです。安定後の測位精度は約±1 mとなっています。
フル充電後に3.65Vまで電圧が下がるのに 要した時間は1時間58分でした。 USB-GPSのデータシートには1 Hzでの測位で 42mAとの記載がありますが、 使用電圧が記入されておらず、最大の8 Vでの測定だと 推測されます。現在の4 Vでの運用では80-100 mA程度は 消費していると考えられ、3.7 V,350 mAhの電池で約2時間の 測定までできたことは規格通りと考えられます。 こちらもフライトレコーダー用には十分な持続時間ですが、 登山、ジョギング用としては7.4 V, 350 mAhか3.7 Vで700mAhといった 使い方をするのが良いと考えれます。
動作試験として自宅近くのスーパーまでの徒歩での移動を測定しました。 環境はマンションと戸建が並ぶ道路沿いの歩道です。 5階以上のマンションのそばを通ることも多く、 測定条件としてはやや厳しいかもしれません。 特に大型マンションの近くでは精度が落ちていることがよくわかります。 測定時間間隔は約1秒ですが、信号が受信できずに2-5秒程度の 間隔となっているデータも多くありました。 以下にその結果を示します。
速度は位置の微分値ですので、測定ごとの誤差が大きくなってしまいますが、 トータルの距離に関しては比較的良い精度で求められています。 また、電源を入れた直後(赤線の左端と青線の右端)は精度が出ていないことがわかります。 自転車やジョギングなど、長い時間の移動距離を求めるには有効なようです。 しかし、模型飛行機のフライトレコーダーとなると、さらに 電波の安定した地点で行う必要があるようです。もちろん、 多くの飛行場は河川敷などの電波条件の良い所にあると考えます。 荒川の土手をジョギングした時の記録も下に載せます。やはり 電波を遮るものがない方が正確に測定ができていることがわかります。
特に以下の拡大図のように、中山道の戸田橋の上では往復の移動が ほぼ完全に一致していることがわかります。
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